名前?苗字? ひろやすの生き様ブログ

「ひろやす」と聞いて、名前だと思われる方が大半です。

本日のつれづれ no.443 〜茨木のり子 『「球を蹴る人」 ーN・Hへー』〜

2017.06.14  【450日連続投稿】

 

球を蹴る人

ーN・Hにー

 

ニ〇〇ニ年 ワールドカップのあと

二十五歳の青年はインタビューに答えて言った

「この頃のサッカーは商業主義になりすぎてしまった

    こどものころのように無心にサッカーをしてみたい」

的を得た言葉は

シュートを決められた一瞬のように

こちらのゴールネットを大きく揺らした

 

こどもの頃のサッカーと言われて

不意に甲斐の国 韮崎高校の校庭が

ふわりと目に浮かぶ

自分の言葉を持っている人はいい

まっすぐび物言う若者が居るのはいい

それはすでに

彼が二十一歳の時にも放たれていた

 

君が代はダサいから歌わない

 試合の前に歌うと戦意が削がれる」

〈ダサい〉がこれほどきっかり嵌った例を他に知らない

 

やたら国歌が流れるワールドカップで

私もずいぶん耳を澄したけれど

どの国も似たりよったりで

まっことダサかったねえ

日々に強くなりまさる

世界の民族主義の過剰

彼はそれをも衝いていた

 

球を蹴る人は

静かに 的確に

言葉を蹴る人でもあった

 

茨木のり子集 言の葉 3』(『「私」を生きるための言葉』著:泉谷閑示)より引用

 

おわり。