名前?苗字? ひろやすの生き様ブログ

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本日のつれづれ no.544 〜渡辺京二『逝きし世の面影』第14章-心の垣根-②〜

2017.09.26  【554日連続投稿】

 

 幕末日本を訪れた観察者の前に現れたのは、こういう平和と安息の世界だったもである。それは彼らの期待と夢想によって異常に拡大された明るい側面にすぎない、という批判が聞こえてくる。しかし、暗い側面をあげつらうのは批判者にゆだねよう。混沌、逸脱、不調和、異常、無秩序を積極的に評価し、そういう様相を幕末・明治初期の社会の裏面からひろい出すような志向は、私がそれを追随せずとも、現代の時代構造そのものが生み出す流行の言説となっている。私がただ、それが明るいか暗いかとは別として、異邦人の目に映ったものを述べよう。それが圧倒的に明るい像だとするならば、像をそのように明るくあらしめた根拠について思いをはせよう、ダーク・サイドのない文明はない。また、それはあればこそ文明はゆたかなのであろう。だが私は、幕末、日本の地に存在した文明が、たとえその一面にすぎぬとしても、このような幸福と安息の相貌を示すものであったことを忘れたくない。なぜなら、それはもはや滅び去った文明なのだから。

 

渡辺京二『逝きし世の面影』p.561~562

 

おわり。