2018.01.12 【661日連続投稿】
なんでも10年やり続ければ、その人のものになり一人前になると聞きます。実際、そうであった詩人であり戦後最大の思想家と呼ばれる吉本隆明さんの言葉です。
それのどこがいけないのかと当人たちは言うかもしれません。ぼくはいけないとは言いませんが、なるべく早く、引っ込み思案なら引っ込み思案の自分に合った仕事を見つけたほうがいいんだよ、ということは言いたいです。
なぜなら、どんな仕事でも、経験の蓄積がものを言うからです。持続ということは大事です。持続的に何かをして、その中で経験を積んでいくことが必要ないような職業は存在しません。ある日突然、何ものかになれるということはないということは、知っておいたほうがいい。
アルバイトの中には、時間を切り売りするだけとか、肉体労働で体力だけを必要とするとか、そういう仕事もあります。しかし、そういった仕事を本当に満足して一生やっていけるかというと、そういう人生はあまり多くないはずです。人に満足をもたらす仕事には熟練が必要であり、また、熟練するほど賃金もよくなります。本人にも自分は何かを身につけたという実感があります。
たとえば物書きというのは虚業で、政治家の次くらいにくだらない職業ですが、それでも持続ということが大事であることは変わらない。才能がどうこう言っても、10年続けないと一人前になれません。
逆に言うと、10年続ければどんな物書きでも何とかなります。毎日毎日、5分でも10分でもいいから机に向かって原稿用紙を広げる。そして毎日書く。何も書けなかったとしても、とにかく原稿用紙の前に座ることはやる、それを10年やれば、その人は100パーセントものになります。
これは、どんな仕事でも同じです。どんなに頭のいい人でも、毎日継続して「手を動かす」「手で考える」ということをしない限り、5年もすれば駄目になる。手を動かし、手で考えるとは、物書きの場合ならともかく書き続けることであり、書けなくても毎日原稿に向かうことです、文学者であろうと職人さんであろうとバイオリン弾きであろうと同じです。
吉本隆明『ひとりということ』p.127~128
おわり。