名前?苗字? ひろやすの生き様ブログ

「ひろやす」と聞いて、名前だと思われる方が大半です。

本日のつれづれ no.742 〜夏目漱石『夢十夜』「第六夜」より〜

2018.05.01  【771日連続投稿】

 

 運慶は今太い眉を一寸の高さに横へ彫り抜いて、鑿の歯を竪に返すや否や斜に、上から槌を打ち下ろした。硬い木を一と刻みに削って、厚い木屑が槌の声に応じて飛んだと思ったら、小鼻のおっ開いた怒り鼻の側面が忽ち浮き上がって来た。その刀の入れ方が如何にも無遠慮であった。そうして少しも疑念も挟んでおらんように見えた。

 「能くあの無造作に鑿を使って、思うように眉や鼻が出来るものだな」と自分はあんまり感心したから独言のように言った。するとさっきの若い男が、

 「ない、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋まっているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだから決して間違うはずはない」といった。

 

夏目漱石夢十夜』「第六夜」より

 

自分というのは知らず知らずのうちに出来上がっているもんだと思う。

しかし、知らず知らずに出来上がってしまった自分なんて自分じゃないなんて思うことが、あるんじゃないかと思う。そりゃ理想の自分になれりゃ苦労なんていらないかもしれないけど、その苦労というものが自分らしさになってるんじゃないかって思う。

 

おわり。