2020.03.22 【1458日連続投稿】
会話の編集の奥深さの入り口にどうぞ。
【編集稽古】04
ここに、ある小説の冒頭部分が掲げられている。この短い会話からどんなことが想像できるだろうか。
「葬式はどこでやるんだろう?」と僕は訪ねてみた。
「さあ、わからないな」と彼は言った。「第一、あの子に家なんてあったのかな?」
ここに、ある小説の冒頭部分が掲げられている。この短い会話からどんなことが想像できるだろうか。
「葬式はどこでやるんだろう?」と僕は尋ねてみた。
「さぁ、わからないな」と彼は言った。「第一、あの子に家なんてあったのかな?」
村上春樹『羊をめぐる冒険』より
友人からの電話だ。そうとうに短い会話だが、それでもこれだけで「あの子」が死んだことがわかる。それが急な出来事だったろうことも、わかる。それに、「あの子に家なんてあったのか」というセリフが、これからの物語のすべてを暗示する。実際にも、読者はこのあとただちににムラカミ・ワールドに連れ去られていくことになる。詳しくは"原作"を読まれたい。
このように「話す」「会話する」という流れには、かなり高次な編集が起こっている。それが可能になっているのは、編集をしあっている違いが自分たちが所属している文化と文脈をよく知っているからなのだ。また、互いの「情報の様子」を心得ているからだ。相互共振があるからだ。
ただ、われわれはどうしてそのように会話が成立してきたのか、そこにどんな手法が生きているのか、それはどのような編集方法なのか、そのことに気づいていないだけなのである。
松岡正剛『知の編集術』p.35〜36
おわり。