2018.10.04 【925日連続投稿】
自分が守らなければならない人を増やすことが生きる上で不利だと考える人が多いようですけれど、ぼくは逆だと思います。「自分にできないことができる人」たちからのサービスの返礼にぼくは「ぼくにしかできないこと」をていねいに誠実にやり遂げることしかできない。その義務感は間違いなくぼくの仕事の精度や能率も向上させてくれます。
山で遭難したときに、家で待つ家族がいる人と待つ人がいない独身者では、生存率に有意な差が出るそうです。「自分がいないと困る人」がいるという事実はぎりぎりに追い詰められたときに、「生きなければならない」という思いを強めてくれます。だから、生活のあり方はできるだけ相互依存的なかたちで組み立てたい。
「誰にも迷惑をかけたくない代わりに、誰からも迷惑をかけられたくない」と言い放って自己決定の自由を死守しようとする人がいます。それはずいぶん不利な生き方のように思えます。たしかに、自分が迷惑をかけている人が増えれば増えるほど、その「見返り」として、彼らからの迷惑を今後は自分が引き受けなければならないのですが、この「相互迷惑かけ合い関係」のステイクホルダーが増えれば増えるほど、実はゆきかう行為やサービスや物品の「迷惑度」は減少するんです。なぜか。
『ぼくの住まい論』 著:内田樹
おわり。