名前?苗字? ひろやすの生き様ブログ

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本日のつれづれ no.475 〜渡辺京二『逝きし世の面影』第4章 -親和と礼節-② 〜

2017.07.17  【483日連続投稿】

 

 解放されているのは家屋だけではなかった。人びとの心もまた解放されていたのである。客は見知らぬものであっても歓迎された。ユドルフ・リンダウは横浜近郊の村、金沢の宿屋に一泊したとき、入江の向い側の二階家にあかあかと灯がともり、三味線や琴で賑わっているのに気づいた。何か祝い事をやっているのだろうと想像した彼は、様子を見たく思ってその家に訪ねた。「この家の人々は私の思いがけぬ訪問に初めは大いに驚いた様子であったし、不安に感じていたとさえ思った。だが、この家で奏でられる音楽をもっと近くから聞くために入江の向うからやって来たのだと説明すると、彼らは微笑を漏らし始め、ようこそ来られたと挨拶した」。二階には四組の夫婦と二人の子ども、それに四人の芸者がいた。リンダウは、歓迎され酒食をもてなされ、一時間以上この「日本人の楽しい集い」に同席した。彼らは異邦人にびくびくする様子もなく、素朴に好奇心をあらわして、リンダウの箸使いの不器用さを楽しんだ。そして帰途はわざわざリンダウを宿屋まで送り届けたのである。これは文久ニ(1862)年の出来ごとであった。

 

渡辺京二『逝きし世の面影』p.158

 

おわり。