本日のつれづれ no.1006 〜全力を尽くして無知である。狂言「ぶす」より〜
2019.01.24 【1034日連続投稿】
抑圧の及ぼす「無知の効果」についてわかりやすい例を一つあげましょう。狂言の『ぶす』というお話です。皆さんご存知でしょうが、こんなお話です。
主人が、太郎冠者と次郎冠者に貴重品である砂糖ツボを委ねて外出することになります。留守中に盗み食いをされてはたまらないので、主人は二人にこれは「ぶす」というたいへんな毒物であるから、決して近づかぬようにと釘を刺して出かけます。
最初は「ぶす」の方から吹く風にも怯えていた二人ですが、やがて好奇心に負けて「ぶす」のふたを開けてしまいます。そこから漂う芳香につられて、口のいやしい太郎冠者は制止もきかず「ぶす」をなめてしまいます。そして「ぶす」が砂糖であることを発見します。二人でぺろぺろなめているうちに砂糖つぼは空になってしまいます。
始末に窮した太郎冠者は一計を案じ、二人の主人秘蔵の掛け軸を破り、皿を砕くことにしました。
帰宅して散乱した家の中をみて唖然とする主人に、太郎冠者はこう説明します。
「お留守のあいだ眠ってはいけないと、次郎冠者と相撲をとっておりましたら、勢い余って、あのように家宝の品々を壊してしまいました。これではご主人居合わせる顔がない、二人で『ぶす』を食べて死んでお詫びを、と思ったのですが、いくら食べても、さっぱり死ねず...」
その後、主人は太郎冠者の嘘を見事破ります。
それは、太郎冠者が意識できていないことが要因でした。
続く。